子どもの成長に「想像」が必要な理由

― 美術教育が育てる“心の力” ―

私たちは日々の教育活動の中で、子どもたちが「想像すること」をとても大切にしています。

それは、想像が単に“楽しい遊び”ではなく、子どもの心と成長を支える大切な力だからです。

■ 想像することは「自分から学ぶ力」を育てます。

美術の時間に、子どもたちは「こんなの作ってみたい」「こうしたらどうなるかな?」と、

自分で考え、試し、形にしていきます。

こうした想像の過程は、教育心理学でいう内発的動機づけを高める働きがあります。

つまり、「やらされる」学びではなく、「やってみたい」という気持ちから生まれる学びです。

この「自分からやってみよう」という気持ちは、子どもが将来自立していくための基盤であり、 失敗を恐れず挑戦できる強い心を育てていきます。

■ 想像は「心の成長」を支える大切なプロセスです。

子どもが絵を描いたり、粘土で形を作ったりする中で、その作品には、子ども自身の心の中にある“世界”が表れます。

発達心理学者ヴィゴツキーは、「想像とは、過去の経験を新しい形でつくりなおす力」と言いました。 つまり、子どもたちは絵や工作を通して、日々の経験や感情を自分なりに整理し、「自分ってこうなんだ」「こんな気持ちだったんだ」と理解していくのです。 これは心の発達においてとても重要な過程であり、想像はまさに「こころを育てる学び」と言えます。

■ 想像することは「行動する力」につながります。

行動心理学の観点から見ても、美術活動での想像は大きな意味を持ちます。

子どもが「こうしてみよう」「うまくいった!」という経験を繰り返すことで、自分の行動が結果を生み出すという自信と自己効力感が育ちます。

特に発達に課題のあるお子さんにとっては、ことばで伝えにくい思いや感情を“形”にできることが大きな支えになります。

うまくいったときの達成感が、「もっとやってみたい」という気持ちを生み、

少しずつ行動が安定し、集中力や社会性も育まれていきます。

■ 言葉よりも先に「心」で伝えられる場所。

発達に課題をもつ子どもたちは、 言葉で自分の気持ちを表すことが難しい場合があります。

でも、美術活動では、色や形、素材の感触を通して、言葉のいらない自己表現ができます。

それは「心の中を見せる」といった体験であり、大人がその作品を受け止めることが、子どもにとって大きな安心と信頼につながります。

このように、美術教育は単なる“絵を描く時間”ではなく、自分の心を知り、他者とつながるための大切な時間なのです。

■ おわりに:想像が子どもの未来をつくる。

子どもたちが自由に想像し、表現できる時間を持つこと。それは、目には見えにくいけれど、 心の豊かさ・自信・やさしさ・考える力といった「生きる力」を育てることにつながります。

発達に課題のある子どもも、そうでない子どもも、想像することで「自分らしく生きる力」を育てることができます。 美術教育は、そのための“心の栄養”を与えてくれる場所です。

参考:教育的背景

•Deci & Ryan(1985)内発的動機づけ理論

•Bandura(1997)自己効力感の理論

•Vygotsky(1930)想像と創造の発達理論

•Piaget(1962)象徴機能の発達理論


3歳児の描く想像的表現について

―こころの成長と「描くこと」の意味―

3歳頃になると、子どもたちの絵には“かたち”が少しずつ現れ始めます。

まだ大人の目から見ると「なぐり描き」に見えるかもしれませんが、そこにはすでに豊かな想像の世界が広がっています。

■「描くこと」は心の言葉 。

この時期の子どもは、まだ言葉で自分の思いや体験を十分に伝えることができません。

そのかわりに、絵や色、線、形を通して「心の中の感じ」を表しています。 たとえば、ぐるぐると大きく描く線には「うれしい気持ち」、トントンと点をたくさん描くときには「楽しいリズム」が感じられることもあります。 つまり、絵は子どもの心の言葉なのです。

■想像のはじまり

3歳前後は、発達心理学でいうと「前操作期(ピアジェ)」に入り、頭の中でイメージを思い描く力=象徴機能が育ち始める時期です。 これにより、子どもは現実に見えないものを「心の中で思い浮かべて表す」ことができるようになります。 たとえば、丸を描いて「これ、ママ」と言ったり、色を塗りながら「これ、ライオンの道」と話したりすることがあります。 それは、子どもの中に生まれたイメージが、線や色となって外の世界に表れている瞬間です。

この“見立てる力”こそ、想像力の芽生えであり、創造的思考の第一歩です。

■大切なのは「上手に描くこと」より「感じて描くこと」

3歳児の絵にとって大切なのは、上手・下手ではありません。

子どもが感じたままに表すことこそが心の発達につながります。

「上手だね」と形をほめるよりも、 「たくさんの色を使ったね」「ぐるぐるが元気だね」と、描くプロセスそのものを受けとめてあげることが、子どもの安心と意欲を育てます。

心理学的にも、子どもが安心して表現できる環境があるとき、脳の中では前頭前野が活発に働き、思考力や感情調整の力が育つことが分かっています。 つまり、安心して描けることが、心と知能の発達を支えているのです。

■想像的表現が育むもの

想像を通した描画活動は、子どもの発達に多くの良い影響を与えます。

•自分の思いや体験を形にする「自己表現力」。

•思い描く力(イメージする力)=「創造力」。

•集中して描く中で育つ「自己調整力」。

•できあがった絵を見て語る「言葉と認知の発達」。

これらはすべて、将来の「考える力」「人と関わる力」の基礎となります。

■保護者の方へ

お子さんの絵を見たときは、

「これは何の絵?」と尋ねるよりも、

「どんな色を使ったの?」「たのしかったね」と共感の言葉をかけてあげてください。

そのやり取りの中で、子どもは「自分の思いが伝わった」と感じ、心の中にある想像の種をのびのびと育てていきます。

まとめ

3歳児の描く想像的表現は、

単なる遊びではなく、こころの成長と創造のはじまりを映し出す大切な行為です。

子どもたちが安心して「描くことを楽しめる」時間を大人が支えることで、

その中から、やがて自分で考え、感じ、創り出す力が芽吹いていきます。

 
想像を活かすことが子どもの心を育てる理由

―心理学・発達支援の視点から―

■ 想像は、心を広げる「内なる力」

子どもが絵を描いたり、形をつくったりする中で「こうしたい」「こんな世界があったらいいな」と思い描くこと。

この“想像”は、単なる空想ではなく、心の中で世界をつくり出す力です。

心理学では、この力は「内的世界の構築」と呼ばれ、自分の感情や考えを整理しながら、現実とのバランスを学ぶ過程でもあります。

子どもが想像を働かせるとき、脳内では思考・感情・運動の領域が同時に活性化します。

そのため、「考える」「感じる」「動かす」といった人間の基本的な心の働きが、自然と調和して発達していくのです。

■ 想像がもたらす心理的な成長。

1. 自己理解の芽生え。

想像によって、子どもは「自分の好き」「自分の思い」を形にします。

これが「自己表現」の始まりであり、やがて自己理解や自己肯定感へとつながります。

2. 感情の調整力(情動調整)。

想像の世界では、子どもは自由に失敗し、やり直すことができます。

その経験を通じて、不安や怒りなどの感情を安心して解放できるようになります。これは心理的安定をもたらす大切なプロセスです。

3. 共感と他者理解の育ち

想像の中で他者の立場を考えたり、物語をつくることは、社会的感情(共感・思いやり)の発達にもつながります。 これは対人関係の基礎を形づくる力です。

■ 発達に課題のある子どもにとっての療育的効果。

発達に特性のある子どもにとって、言葉や行動での表現はときに難しさを伴います。

しかし、想像を通した美術活動は、言語に頼らずに心を表す「もうひとつのことば」になります。

非言語的な表現の場。

形や色を使って「自分」を出せることで、心の奥の気持ちを自然に表現できます。

成功体験の積み重ね。

「できた!」「伝わった!」という体験が、自信や意欲を育みます。

これは、心理療法でも重要視される自己効力感(self-efficacy)の育成につながります。

•感覚と運動の統合。

手を動かすことで、感覚と身体のつながりが強まり、集中力や手先の調整力など発達機能の基礎も育ちます。

•安心できる自己表現の環境。

評価されることなく、自由に表現できる場は、子どもにとって「安心できる心の居場所」となり、情緒の安定を促します。

■ 保護者の方へ

想像を働かせる美術活動は、単に「上手に描く」「形を整える」ことが目的ではありません。

子どもが自分の思いを形にし、そこに「自分で考えた」「やってみた」という実感をもつことが、心の成長そのものです。

発達に課題のあるお子さんでも、想像することを通して「心が動く瞬間」を積み重ねていくことができます。

その一つひとつの体験が、自己理解と社会性の土台を育てる――

それが、美術教育がもつ本当の療育的な力なのです。

■ おわりに

想像とは、見えない心を動かすエネルギーです。

子どもが想像する時間は、心の内側で「成長する力」が静かに育っている時間でもあります。

その時間を大切に見守り、応援していくことが、保護者、療育者としてできる最も大切なサポートなのです。


3歳児では観られなかった5歳児の想像

― 心の世界がかたちを持ちはじめる時 ―

3歳頃の子どもの想像は、まだ「感覚」や「感情」に強く結びついた世界にあります。たとえば、絵を描くときも、「ママが好き」「お日さまがピカピカ」といった、今この瞬間に感じている気持ちをそのまま色や線に表します。形は曖昧でも、心の動きがストレートに現れている時期です。 ところが、5歳になると、子どもの想像の質は大きく変化します。 それは、「心の中にあるイメージを、現実とかたちのある世界と結びつけようとする力」が育ってくるからです。

■想像が「物語」になる。

5歳児は、自分の描く絵やつくる工作に、ストーリーをもたせるようになります。

「ここにおうちがあって、ここからおばけが出てくるの」「これは宇宙の国なの」など、心の中で物語を展開しながら表現します。

この“物語的想像”は、思考の発達とともに、他者の視点を意識する力が芽生えている証です。

■「何かになりきる」想像。

3歳児が感覚的に楽しんでいたごっこ遊びが、5歳ではより構造的になります。

自分が“何かに変身している”だけでなく、「相手がどう思っているか」「どうしたら楽しくなるか」といった社会的想像(社会的ロールプレイ)が広がるのです。これは、心の理論(他者の心を推測する力)の発達とも深く関係しています。

■「形」へのこだわりが生まれる。

3歳児では、思いのままに描く・作ることが中心ですが、5歳児になると「こうしたい」「この形にしたい」という意図が明確になります。

つまり、想像を「形にする」段階に入り、創造的な計画性が芽生えます。

美術教育の視点では、ここに「創造的思考」の始まりを見ることができます。

■想像が心を育てる。

5歳児の想像には、「考える」「感じる」「伝える」が一体となった姿が見られます。

子どもが自分の頭の中の世界を手で表現し、それを他者が受け止めてくれる体験は、自分の存在を認められる経験となり、自己肯定感を高めます。

このような時期に、自由に想像し、思いを形にできる美術活動は、子どもの「こころの成長」と「創造的思考」を大きく育てるのです。


美術教育における「想像」がもつ能力

―心を育て、思考を広げる教育の要として―

1. 「想像」とは何か。

美術教育において「想像すること」は、単なる空想ではなく、自分の内側の思いや記憶を形にしていく心の働きを意味します。
子どもが何かを思い描き、それを描画や工作として表現する過程には、「考える」「感じる」「判断する」「試す」といった多様な思考が重なっています。

このような想像は、心理学的には「心の中で新しい世界をつくる力」ともいわれ、
人が生涯を通じて成長していく上で欠かせない力です。

2. 発達段階にみる「想像」の役割。

① 幼児期:感情と自己表現の育ち。

幼児は、言葉で自分の気持ちをうまく伝えられません。
しかし、絵や粘土、色や形を通して表現することで、
自分の思いを見える形に変えることができます。

この過程は、ピアジェの言う「象徴的遊び」に近く、
現実と空想を自由に行き来しながら、心の中を整理していく時間です。
この経験が、情緒の安定や自我の形成へとつながります。

② 児童期:考える力・発見する力の育ち。

小学生になると、ものごとを論理的に考えようとする力が伸びてきます。
しかしその一方で、自由な発想(発散的思考)もまだ豊かに残されています。

美術活動における想像は、この柔らかな思考を活かし、「こんなやり方もある」「違う形にしてみよう」といった創造的な思考を育てます。
つまり、正解を求めるのではなく、新しい見方を発見する学びがそこに生まれるのです。

③ 青年期・成人期:自己理解と内省の力。

思春期から成人にかけての表現は、自分と社会の関係を見つめ直す機会になります。
作品を通して「自分は何を感じているのか」「どう生きたいのか」を考えることは、
エリクソンのいう「アイデンティティ形成」と深く関係します。

また、社会人や高齢者においても、想像による創作は自分の経験を再構成する行為であり、
心の回復力(レジリエンス)を支える重要な営みとなります。

3. 想像が生み出す学びの力。

① 自発的に学ぶ意欲を育てる。

美術活動では「やってみたい」「表したい」という気持ちが学びの原動力になります。
これは心理学でいう内発的動機づけの力であり、
自分で考え、自分で試す力=自律的な学びを生みます。

② 考えを深めるメタ認知を育てる。

子どもは制作の中で、「どうしたらうまくいくかな」「何を描きたいんだろう」と自分に問いかけます。
この「自分の思考を見つめる力」は、学習全般に通じるメタ認知能力です。
作品づくりを通して、考える力の質が深まっていきます。

③ 他者と関わる社会的想像力を育てる。

他の子どもの作品を見ることで、「こんな考え方もあるんだ」と気づくことがあります。
それは他者の視点を想像する力であり、共感・協働・理解の芽となります。
美術教育は、個人の表現だけでなく、社会的な関わりの学びでもあるのです。

4. アート思考と「想像」の関係。

近年注目されるアート思考(Art Thinking)は、「答えのない問いに向き合う」思考法です。
美術教育での想像は、このアート思考の実践そのものです。

子どもたちは作品づくりの中で、

■「なぜこれを作るのか?」(目的の探求)

■「どう見えるか?」(他者視点)

■「こうなったらどうだろう?」(仮説的思考) といった問いをくり返しながら、自らの思考を広げていきます。
このように、想像は創造的思考と批判的思考を結びつける架け橋となります。

5. 想像が育む人間的成長。

成長領域 想像による育ち 教育的意義

認知面 発散的思考、問題発見、解決 柔軟な思考力を育てる

情緒面 感情の表現・自己理解 心の安定と共感性を育む

社会面 他者理解・協働 社会的想像力・共感を高める

学習面 自発性・内発的動機づけ 主体的な学びを支える

創造面 新しい価値の創出 自己表現と創造性の発揮

6. おわりに。

美術教育での「想像」は、単なる芸術的活動ではなく、
人が生きる力を育てる根幹的な教育行為です。

それは、

• 子どもが自分の思いを発見し、

• 他者とつながり、

• 新しい価値を生み出す力を養うこと。

美術教育における「想像」は、未来を描く力そのものであり、
技術を超えた「心の教育」としての価値をもっています。

   

認知高齢者に向けた想像的表現による美術教育

―心地よい時間と心的安定をもたらす想像的実践―

1. はじめに。

近年、高齢化社会の進展に伴い、認知症を含む認知機能の低下を抱える高齢者が増加しています。その中で、医療的介入だけでなく、心理的・情緒的安定をもたらす非薬物的支援の重要性が注目されています。

特に、美術教育に基づく「想像的表現活動」は、記憶の回復や認知機能の維持のみならず、「心地よい時間」を生み出し、個人の内的世界を豊かにする効果があると考えられます。

この解説書では、美術教育の観点から認知高齢者における想像的表現の意義を検討し、その心理的・教育的効果について発達心理学、芸術療法、教育心理学の観点から考察します。

2. 想像的表現の心理的基盤。

ヴィゴツキー(Vygotsky, 1930)は、「想像とは、経験をもとに新たな心的結合を生み出す能力」であると述べています。

認知機能が低下しても、個人の過去の経験や感情は潜在的に保持されており、芸術的な刺激を通して再活性化することが可能です。

この過程は、記憶や知覚といった認知機能よりも情動に深く根ざしており、特に高齢者においては、「思い出すこと」よりも「感じること」が自己同一性の回復に寄与します。

想像的表現とは、単に何かを描く、作るといった作業的行為ではなく、自己の内的世界を再構築する心理的行為であり、そこには「心の再生」の要素が含まれています。

3. 美術教育における想像的表現の実践。

美術教育の場では、技術習得よりも「表現する喜び」と「想像を働かせる時間」を重視することが重要です。 認知高齢者においては、完成度よりも「作る過程での感情体験」に焦点を置くことで、達成感や安堵感を得やすくなります。

例えば、以下のような活動が効果的です。

▫️想い出をテーマにした描画活動。(例:子どもの頃の風景や季節の記憶を描く)

▫️自然素材を用いた工作活動。

(例:木の実や葉を使ったコラージュ)

▫️共同制作。

(他者との関わりの中で、社会的つながりを感じる)

これらの活動は、個々のペースを尊重しながら想像的表現を促すものであり、同時に社会的交流を支える教育的意義を持ちます。

4. 想像的表現がもたらす心理的効果。

(1) 心的安定と情緒的回復。

想像的表現を通じて、認知高齢者は自己の感情を「作品」という形で外在化できます。この外在化は、心理的整理や自己理解の促進に寄与し、不安や孤独感の軽減をもたらします。

(2) 自己同一性の回復。

「描く」「作る」といった行為の中で、自身の記憶や経験に触れることは、失われつつある自我の再確認につながります。 過去と現在をつなぐ想像のプロセスは、認知の維持よりも深層的な「生きている実感」を取り戻す作用を持ちます。

(3) 社会的交流と共感の促進。

作品を他者と共有することで、「見てもらえる」「理解してもらえる」という他者との関係性が生まれます。 この共感的経験は、社会的孤立を防ぎ、情緒的安定を支える重要な要素です。

5. 教育心理学的観点からの考察。

教育心理学においては、学びの本質は「自己実現」と「社会的関係性の構築」にあるとされています(マズロー, 1943)。

認知高齢者における美術教育もまた、「学び直し」ではなく「生き直し」のプロセスであり、創造的自己表現を通じて新たな自分を再構成する教育的機能を持ちます。 また、非認知能力(感情の調整、共感性、忍耐力など)の維持・回復にもつながり、これは高齢期における心理的ウェルビーイングの重要な要素です。

6. 結論。

認知高齢者にとって、美術教育に基づく想像的表現は単なる娯楽活動ではなく、「心の再生」と「生きる意味の再発見」を促す重要な教育的・心理的実践です。

想像を働かせる時間は、過去と現在、自己と他者を結ぶ架け橋となり、「心地よい時間」として体験されます。

今後の実践においては、個々の経験や感情に寄り添った教育的アプローチの開発、そして医療・福祉・教育の連携による多面的支援の構築が求められます。

参考文献

•Vygotsky, L.S. (1930). Imagination and Creativity in Childhood.

•Maslow, A.H. (1943). A Theory of Human Motivation.

•河合隼雄 (1992) 『イメージの心理学』岩波書店.

•小林美智子 (2010) 『高齢者のための芸術療法』ナカニシヤ出版.

•佐藤豊 (2018) 『高齢者と創造性―生きる力としてのアート』ミネルヴァ書房.

     

今回開講する美術教室で生み出される「想像」の

教育について

― 心を動かし、考える力を育むアートの時間 ―

この美術教室で大切にしているのは、「上手に描く」ことではなく、「自分の中にある思いや発見を形にする力」です。

子どもたちが筆やハサミ、粘土を手に取るとき、そこには既に「想像」が芽生えています。

「こんなものを作ってみたい」「こんな世界があったら楽しいかも」という心の動きこそ、想像の出発点です。

1. 経験から生まれる想像

発達心理学者ヴィゴツキーが説いたように、想像とはこれまでの経験をもとに新しいものを組み立てる力です。

本教室では、日常の中で見たり感じたりした体験を素材に、子どもが自分なりの世界を作り出す活動を行います。 そこから、ものごとを多角的に捉え、再構成する柔軟な思考が育てます。

2. 思考と感情が交わる想像

絵を描く、形をつくる、その過程では「どうすれば思った通りになるか」「どんな色が合うか」といった思考と、 「楽しい」「難しい」「もう一度やってみたい」という感情が交錯します。

この思考と感情の往復が、想像を深め、心を豊かにするプロセスとなります。

3. 他者と関わりながら広がる想像

グループ制作や作品の見せ合いを通して、子どもたちは他者の発想に触れ、 「そんな考え方もあるんだ」と新しい視点を得ます。

その経験は、自分の世界を広げるだけでなく、共感や対話の力へとつながります。

4. 失敗が「次の想像」を生む場

上手くいかない経験も、本教室では大切な学びです。

「もう一度やってみよう」「ちょっと違うやり方を考えてみよう」と、失敗を次の想像へとつなげる力を育てます。 このプロセスこそ、創造的思考の基礎であり、将来の学びや人生の中で生きる力になります。

■まとめ

この美術教室では、「想像」を

•心の中の思いを形にする力。

•経験を新たに組み替える力。

•他者との関わりから広げる力として捉えています。

美術を通して子どもたちは、自分の世界を描き出しながら、自ら考え、感じ、試すことを楽しむ「生きた学び」を体験していきます。この過程そのものが、“想像が生まれる教育”なのです。

 

美術教育における想像・創造的無意識・表現

―表現に課題のある子どもたちのためのアート課題考察―

1. はじめに

美術教育は、単なる技能訓練や鑑賞教育に留まらず、子どもの内面世界の可視化と自己形成を促す営みである。特に表現に課題のある子どもたちにとって、美術は言語を超えた「こころの表現手段」として機能する。そこには、想像(imagination) と 創造的無意識(creative unconscious)の働きが深く関わっている。

2. 想像と創造的無意識の心理学的意味

(1) 想像の役割。

ヴィゴツキー(Vygotsky, 1930)は、想像を「既存の経験を再構成し、新たな形に結びつける心的過程」とした。つまり、想像とは単なる空想ではなく、経験と感情をもとに世界を再構築する力である。

→ 子どもが絵や工作で表す「想像の世界」は、自分自身の心の再編成そのものである。

(2) 創造的無意識(ユング心理学的視点)。

ユング(C. G. Jung)は、「創造的無意識」は人の深層に眠る象徴的イメージの源泉であり、それが表現を通して意識化されることで個の成長(個性化)が進むと述べている。

→ 美術活動において子どもが思いがけず描いた形や色には、しばしば言語化されない感情の痕跡や心のエネルギーが含まれる。

3. 表現に課題のある子どもたちへの意義

(1) 「言葉にならない心」を扱う領域としての美術。

発達障害や情緒的課題をもつ子どもたちは、自分の思いや感覚をことばで伝えることが難しいことが多い。

しかし、色や形、素材との関わりは、言語を介さずとも感情を外化できる。

→ ここでの表現は、「語る」ではなく「感じる・かたちにする」である。

(2) 安全な自己表現の場としてのアート。

アートは評価のない「自由領域」であり、正解・不正解のない活動である。この非評価的環境が、表現への不安を取り除き、自己肯定感や主体性の芽生えにつながる。

4. 表現に課題のある子どもが取り組みやすい課題の考察。

観点 具体的課題例 ねらい・心理的意味

感覚重視(素材と対話) 粘土遊び・段ボール工作・絵具の指描き 素材に触れることで身体感覚から自己表現を促す。無意識的な動きから感情の表出が可能。

想像の自由(非具象的課題) 「こんな世界があったらいいな」「音を色で描こう」 具体的モチーフに縛られず、内面の象徴表現を引き出す。


自己投影(内的世界の表出) 「ぼくの気持ちの色」

「今日の気分の形」 感情と形・色を結びつけ、情緒の可視化を助ける。

協働的創作(他者との関係形成) 共同壁画・大きな造形制作 他者との関係を安全に築く練習。社会的スキル・役割意識を養う。

ストーリーづくり

(想像の展開) 未来の町」「もし動物がしゃべれたら」 思考の拡散・収束の練習。自己の世界を語る体験を支援。

5. 教育的支援の視点 。

• 評価よりも過程を重視する(「何を作ったか」より「どう感じたか」)。

• 教師・指導者は“共感的観察者”として存在する。

• 作品の背後にある子どもの心象を受け止める姿勢を持つ。

• 「できた・できない」ではなく「表現できたこと」自体を認める。

6. おわりに

美術教育における想像と創造的無意識は、表現に課題をもつ子どもたちに「自己を回復し、世界とつながる」ための道を開く。 そこでは、上手に描くことよりも、感じる・かたちにする・伝わるという人間の根源的営みが重視される。

子どもたちが自らの無意識の世界を安心して表現できるような美術教育の場づくりこそ、現代の教育に求められている。


【補足】岡田 清

子供の絵の伸ばし方からみる美術教育の本質に迫る。

Ⅰ.序論

子どもの絵は、単なる技術的表現ではなく、心の成長と内面の発達を映し出す「鏡」である。

美術教育家・岡田清は、戦後の児童美術教育の中で「子供の絵を伸ばす」とは何かを問い続け、描画の技術指導にとどまらない、人間形成としての美術教育を提唱した。

今回、美術教室を開講するにあたり、岡田清の教育理念を中心に、子どもの絵の伸ばし方を通して、美術教育の本質を再考します。

Ⅱ.岡田清の美術教育観

岡田は「子どもの絵には、その子のすべてが表れている」と述べている。

つまり、絵は子どもの心の状態、思考の成熟度、さらには社会との関わり方をも示す総合的な表現である。

岡田の教育は、上手に描くことを目的とせず、「自分の世界を描ける子ども」を育てることを重視した。

そのために彼は次の3つの柱を掲げている。

1. 自発性の尊重 ― 教師が指導しすぎない。子どもの内発的な意欲を信頼する。

2. 過程の重視 ― 完成品よりも、思考や発想のプロセスを評価する。

3. 個の発見 ― 子どもの中に潜む独自の世界観を見出す。

この3要素は、ヴィゴツキーの発達理論における「最近接発達領域」や、デューイの「経験としての教育」とも響き合うものであり、子どもの内的発達と創造性の統合を目指すものであった。

Ⅲ.子どもの絵の「伸ばし方」とは

岡田のいう「絵を伸ばす」とは、単に巧拙を伸ばすのではなく、

•表現の自由度

•心の解放

•世界への関心の広がり

を促すことを意味している。

岡田は、子どもの描画表現を評価する際、「その子がどれだけ世界を見つめ、感じ、考え、表そうとしたか」に注目した。

これは、認知心理学的に言えば、「想像的思考(イマジナティブ・シンキング)」の発達に着目する姿勢である。

また、描くことを「心のことば」と捉え、子どもが安心して表現できる環境(心理的安全性)を整えることが、指導者の役割であると説いている。

この視点は、現代教育心理学における非認知能力の育成にもつながる。

Ⅳ.美術教育の本質

岡田が到達した美術教育の本質は、「表現を通して、子どもが自己を発見し、世界と出会うこと」である。

絵を描く行為は、単に手先の訓練ではなく、思考・感情・記憶・想像といった心の総合的な営みである。

この営みの中で、子どもは「感じる力」「考える力」「他者と共感する力」を育てていく。

つまり、美術教育とは「人間の心を育てる教育」であり、岡田清はその根幹に「子どもを信じ、表現を信じる教育観」を据えたのである。

Ⅴ.結論

岡田清の提唱する「子どもの絵の伸ばし方」は、単なる描画指導法ではなく、人間理解に基づく教育哲学である。

子ども一人ひとりの表現を尊重し、その中に潜む心の発達を支えること。

そこにこそ、美術教育の本質が存在する。

現代の教育現場においても、「結果」より「過程」を重視する岡田の理念は、子どもの想像的思考を育む重要な指針となり得る。

美術教育は、子どもを「上手にする」ためのものではなく、「その子らしく生きる力」を育てるものである。

注)この原稿の中で、子どもを子供と表現しています。それは、岡田清の著書「子供の絵の伸ばし方」から引用したものです。


【補足2】ローダー・ケロッグ

ローダー・ケロッグの「なぐり描きからピクチャへ」。

―子どもの心が形を生み出す、美術発達のプロセス―

1. はじめに:子どもの描く行為の意味。

子どもが最初にクレヨンを手にして紙の上をなぐるように描く。その行為は単なる「落書き」ではありません。心理学者であり美術教育家のローダー・ケロッグ(Rhoda Kellogg)は、世界中の数十万点に及ぶ子どもの絵を分析し、そこに共通する発達的な法則を見出しました。

それは、「なぐり描き」から「ピクチャ(絵としての表現)」へと向かう心の発達過程です。

2. なぐり描き期(Scribbling Stage):心の衝動が線になる。

ケロッグは、2歳前後の子どもが見せる「なぐり描き」を、心と身体の協応のはじまりと捉えました。

この段階では、子どもは描く「結果」よりも、「描くことそのもの」を楽しみます。

•クレヨンを走らせる感覚

•線が生まれる驚き

•自分の手の動きが“形”になる発見

この時期の線は、まさに子どもの内面が外に表出する感情的エネルギーの軌跡です。

教育者や保護者が「上手・下手」で判断するのではなく、自由に描く体験することが重要です。

3. 図式形成期(Forming Stage):形への気づき。

3歳を過ぎるころ、なぐり描きの中から*『「円」や「十字」「放射線」などの形(フォルム)』が現れます。

ケロッグはこれを「図式(form pattern)」と呼びました。

これは偶然ではなく、子どもの内的秩序感や構造化の芽生えを示しています。

•「ぐるぐる」=円への関心

•「ばってん」=交わりの理解

•「線と円」=構成への試み

この段階で子どもは、形を通して世界を整理し、自分の中に秩序を築こうとしているのです。

4. ピクチャ期(Pictorial Stage):意味ある形の誕生。

4〜5歳頃になると、これまでの形の組み合わせに「意味」が生まれます。

子どもは、「これはママ」「これはおうち」など、象徴としての表現を始めます。

この瞬間こそ、「なぐり描き」が「ピクチャ」へと進化する時です。

ケロッグは、ここで初めて「描くことが思考の表現となる」と述べています。

つまり、子どもは線を通して世界を理解し、同時に自分を表現しているのです。

5. 教育的意義:自由な表現の中にある発達。

この発達過程を知ることで、私たちは「上手に描けるか」ではなく、「どのように描く過程を経ているのか」に目を向けることができます。

•なぐり描き期:感覚と身体の発達

•図式期:思考と構造化の芽生え

•ピクチャ期:象徴化・想像の発達

美術教育の役割は、形の正確さを教えることではなく、子どもの心が表現へと向かうプロセスを支えることにあります。

6. まとめ:線の中にある「心の発達」。

ローダー・ケロッグが示した理論は、子どもの描く行為を“芸術”としてではなく、人間の発達の根源的な表現行為として捉えたことに大きな意義があります。

子どもが描く一つの線、一つの丸は、その子の心が世界と関わりはじめた証です。

私たち大人がその線を「理解しよう」と目を向けることこそ、子どもの創造性と心の発達を支える第一歩なのです。

【参考文献】

•Rhoda Kellogg, Analyzing Children’s Art, National Press Books, 1969.

•Rhoda Kellogg & Scott O’Dell, The Psychology of Children’s Art, 1967.

•石井光恵(訳)『子どもの絵の発達と表現』黎明書房

11月美術教室開講に向けて。

画像は、3歳児と認知高齢者の作品です。

題目:美術活動における想像・思考・創作の普遍的意義

1. 序論

美術活動は、感覚的な楽しみや表現手段としての側面にとどまらず、人間の認知的・情緒的発達を支える重要な営みである。

特に、想像(imagination)、思考(thinking)、創作(creation)は、美術活動を通して発現・強化される基本的な人間能力であり、日常生活の多様な局面において必要とされる。本研究の目的は、美術活動におけるこれらの営みの意義を心理学的・教育学的理論に基づいて考察し、年齢や障害の有無を超えて普遍性を有することを論証することである。

2. 理論的背景

2.1 想像と発達

Piaget(1962)の認知発達理論によれば、幼児期の遊びや模倣行為は、想像力の発達に密接に関連する。

また、Vygotsky(1978)は「最近接発達領域(ZPD)」の概念を通じて、社会的相互作用が想像的活動を支えることを示した。これらの理論は、想像が単なる空想ではなく、発達的・社会的機能を持つことを明らかにしている。

2.2 思考と認知的プロセス

美術活動においては、構図の選択、素材の活用、配色の判断など、高次の認知活動が伴う。教育心理学の研究では、これらの活動は「メタ認知」の育成に寄与し、学習の自己調整能力を高めることが指摘されている(Flavell, 1979)。さらに、美術活動は論理的推論や批判的思考を実生活に応用可能な形で養成する役割を担う。

2.3 創作と自己効力感

Bandura(1997)の自己効力感理論によれば、個人は「できる」という感覚を通じて学習や行動への動機づけを高める。美術活動における創作は、この自己効力感を直接的に強化し、達成感や自己肯定感をもたらす。また、共同制作や展示などの社会的場面は、協働性や社会的承認の経験を提供する。

3. 議論

3.1 年齢を超えた意義

幼児にとって美術活動は感覚運動的発達の延長であり、小中学生にとっては創造的思考力の鍛錬の場である。成人においては職業的スキルや自己表現の手段として機能し、高齢者にとっては回想法的効果や認知機能の維持につながる。このように、美術活動はライフステージ全般を通じて意義を持つ。

3.2 障害の有無を超えた意義

発達障害児や知的障害者にとって、美術活動は言語表現を補う代替的な自己表現手段であり、潜在能力を引き出す役割を果たす。認知症高齢者においても、記憶障害の影響を超えて創造性が発揮される事例が報告されている。したがって、美術活動は制約を超えた普遍的教育資源として位置づけられる。

4. 結論

本稿では、美術活動における想像・思考・創作が、年齢や障害の有無にかかわらず人間の生活において不可欠であることを論じた。これらの営みは、発達心理学的には認知と情緒の統合を促し、教育心理学的には学習の自己調整や創造的問題解決を支援する。

さらに、社会的文脈においては協働性と自己効力感を高め、生活の質を向上させる。以上のことから、美術活動は人間発達と社会生活に普遍的に必要な営みであり、教育・療育・福祉など多領域における実践的意義を持つと結論づけられる。

参考文献

•Bandura, A. (1997). Self-efficacy: The Exercise of Control. New York: Freeman.

•Flavell, J. H. (1979). Metacognition and cognitive monitoring: A new area of cognitive–developmental inquiry. American Psychologist, 34(10), 906–911.

•Piaget, J. (1962). Play, Dreams and Imitation in Childhood. New York: Norton.

•Vygotsky, L. S. (1978). Mind in Society: The Development of Higher Psychological Processes. Cambridge, MA: Harvard University Press.

🍂 11月開講 美術教室のご案内(大阪・茨木市)

この秋、茨木市にて 「想像を豊かに育む美術教室」 を開講いたします。

本教室では、絵を描く技術だけではなく、子どもから大人まで、 想像力を育てる教育 に重点を置いています。

◆ 開講日

 •毎週日曜日

 •ご都合に合わせて時間をお選びいただけます。

◆ 対象

 •幼児から高齢者まで、どなたでもご参加いただけます。

 •美術の経験がなくても大丈夫です。

 •障がいの有無に関わらず、安心して学べます。

◆ 教室の特徴

1. 想像力の育成

美術活動を通して、発想を形にする楽しさを体験します。

子どもには創造的思考の基礎を、大人や高齢者には新たな表現の喜びを育みます。

2. 心の発達と安定

心理学的な視点を取り入れ、作品づくりの過程そのものが自信や心の安定につながるようサポートします。

3. 安心の学び場

技術を競う場ではなく、誰もが自由に表現できる環境を大切にしています。

初めての方も、安心してご参加いただけます。

📌 美術は「上手に描くこと」だけが目的ではありません。

想像し、表現することは、お子さまの発育や発達を支え、大人にとっても心を豊かにする学びとなります。

◆ お問い合わせ・お申込み

ご興味のある方は、お気軽にメールにてお問い合わせください。
(出張レッスンも受け賜ります。)


講師:大場六夫

奈良学園大学 人間教育学部(2015~2025年3月まで非常勤講師)

トライ式高等学院 非常勤講師

東大阪市民美術センター講師

京都市立芸術大学 美術教育研究会

M-GTA研究会

日本美術教育学会

日本教育心理学学会

公益財団法人教育美術振興会会員

京都創生推進フォーラム会員

京都文化芸術・コアネットワーク メンバー

公益財団法人きょうと視覚文化振興財団 フォーラム会員


7月27日(日)まで大阪南千里(阪急千里線)駅前、吹田市市民公益活動センター「ラコルタ」にて「第2回子どもたちの想像から生まれた作品展を開催しました。

―発達に課題のある子どもたちが私たちに問いかける「美しさ」とは―

美しさとは何か。それは、長らく固定された価値観や規範によって定義されてきた概念である。対称性、調和、洗練された形…。しかし、現代においてその定義は揺らぎ始めている。特に、アート活動を通して表現を行う発達に課題のある子どもたちの姿は、私たちの「美」の認識に新たな視座を与えてくれる。

彼らの描く線や形は、決して均整のとれたものではないかもしれない。しかし、その中にある「伝えたい」「創りたい」という強い意志や、独自の視点、偶発的に生まれる造形美には、従来の美術教育では見落とされがちな“生きた美”が宿る。

彼らにとってのアートは、評価されるためのものではなく、心の内を解放し、世界とつながるための手段である。その純粋な創造行為の中に、私たちは美の本質、つまり「感じること」「共鳴すること」「内なる衝動の表現」といった、人間に本来備わっている感性の根源を再発見する。

美しさとは、誰かが定めた基準に沿うことではなく、今ここに生きる人間の感情や視点が交差する中で、絶えず変容し続ける現象なのかもしれない。発達に課題のある子どもたちが生み出す表現は、その柔軟な再定義を私たちに促している。

下記の子どもたちのアート作品は、この美術教育論の中から抜粋したものです。

デザインスクール セナハウスの記事は、右の欄のセナハウスというところをクリックしていただきご覧ください。

発達に課題のある子どもに向けたアート活動を個人の方、施設(放課後等デイサービスなど)で出張指導を致します。
時間・金額・日程など詳細は下記のメールアドレスまたは電話090-9981-3723までお問合せください。


発達に課題のある子どもの精神的不安・ストレスに対するアート活動の効果。

― 美術的および精神医学的観点からの考察 ―

はじめに

発達に課題のある子ども(発達障害を含む)は、自己理解や対人関係、学習環境への適応においてさまざまな困難を抱えることが多く、これが精神的不安やストレスの要因となります。近年、こうした子どもたちの支援方法として、アート活動が注目されています。アート活動がなぜ精神的負担の軽減に寄与するのかについて、美術教育の立場と精神医学の知見から考察しました。

1. アート活動の特性と発達的意義

1.1 非言語的表現の重要性

発達に課題を持つ子どもは、言語によるコミュニケーションに困難を抱えることがあります。絵画や造形などのアート活動は、言葉以外で自己を表現する手段となり、自分の内面を安全に外に出す「媒介」として機能します。これは、自己肯定感の向上や情動の整理につながります。

1.2 成功体験と自己効力感

アート活動では、「正解」がなく、自分なりの表現が尊重されます。このような環境下では、認知的な能力の差異があっても、自由に表現しやすく、創造行為を通じて「自分にもできた」という成功体験を得やすいです。これが自己効力感を高め、不安感を軽減する方向に作用します。

2. 精神医学的観点からのアート活動の効果

2.1 アートと情動調整

アート活動は、ストレスや情動の調整に有効であることが多くの研究で示されています。脳科学的にも、芸術活動により扁桃体の活動が抑制されることで、情動の沈静化が促されます。これは、トラウマや不安を抱える発達障害児にとって、心理的安定に寄与する重要なメカニズムです。

2.2 アートセラピーの臨床的実践

精神科領域では、アートセラピーが情緒障害、トラウマ、不安障害、ASDなどへの治療的介入として活用されています。特に「外在化」のプロセスにより、内面の混乱や不安を「作品」という形に置き換えることで、自己と距離を置いて向き合うことが可能になります。

3. 実践的示唆

発達に課題を持つ子どもに対して、教育現場でアート活動を積極的に導入することは、単なる情操教育を超えて、心のケアや自己調整力の育成に直結する支援となります。個別対応や自由表現の保障が重要であり、評価の軸は「結果」ではなく「プロセス」に置くべきです。

おわりに

アート活動は、発達に課題を持つ子どもにとって、情緒的安全基地となり得る表現手段です。非言語的かつ創造的な活動は、精神的不安やストレスの軽減に寄与し、彼らが自己理解を深め、社会とつながるための「通路」となります。



お問合せ先:sennahouse@gmail.com(大場)

プロジェクトを立ち上げました。

みなさまのご協力をお待ちしています。

「子どもたちの想像力を育む美術教育の拠点をこの秋大阪に開設します。感じ、考え、表現する力を養い、未来を切り拓く人としての力を育てます。」

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代表:大場六夫

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