2025.12.13 05:24発達に課題のある子どもにおけるアート表現の心理・教育的意義発達に課題のある子どもにおけるアート表現の心理・教育的意義― 内的表象の外化と自己効力感形成を支える実践的応用 ―要旨(Abstract)本応用研究は、発達に課題のある子どもがアート表現を通して示す「得意げな表出行為」に着目し、その心理的・認知的意義および教育的支援方法を明らかにすることを目的とする。発達心理学、特別支援教育、美術教育学の理論を基盤に検討した結果、アート表現は言語的制約を超えた内的表象の外化を可能にし、自己効力感、情動調整、主体性の形成に寄与する有効な支援手段であることが示唆された。1. 研究背景発達に課題のある子ども(自閉スペクトラム症、ADHD、知的発達症、発達性協調運動症など)は、 • 感情や意図の言語化 • 自己表現 • 成功体...
2025.12.09 14:55ダンボール工作の発育的意義〈ダンボール工作の発育的意義〉― 3週間集中して仕上げた作品から見える発達 ―今回の作品は、3週間という長い期間、集中力を切らすことなく取り組み続けた点に大きな成長が見られます。ダンボールや割り箸、紙を組み合わせ、細部にまで工夫して仕上げた姿には、子どもの想像力・計画性・遂行機能が豊かに働いていました。■ 1. “頭の中の設計図”を形にする【認知発達】実際に紙に描いた設計図がなくても、「頭の中に完成形がイメージでき、それを作りながら微調整していく」これは、幼児期後半に育つ 心的イメージ力(メンタルイメージ) の発達を示します。心的イメージを保持し、作業しながら修正し続ける力は、● 問題解決● 創造的思考● 作業記憶を支える重要な認知能力です。■ 2. ...
2025.12.09 11:20色画用紙で帽子作りをやり遂げた活動の心理学的・学習的意義色画用紙で帽子作りをやり遂げた活動の心理学的・学習的意義1. 「周囲の刺激に影響されず、自分の表現を続けた」ことの意義周りにさまざまな遊びがある環境は、幼児にとって大きな誘惑です。その中で制作活動を続けることができたという事実は、 • 選択的注意(Selective Attention)必要な刺激にだけ意識を向け、不必要な刺激を抑制する力。幼児期に育まれる重要な認知機能で、学習場面の集中力の基盤となる。 • 自己調整能力(Self-Regulation)「今はこれを完成させたい」という内的動機を維持し、外の刺激に流されない力。この2点がとてもよく発揮されていたと言えます。これは 将来の学習態度や課題遂行スキルにもつながる大きな成長です。2. 「失敗して...
2025.12.07 07:25今日の美術教室 ふりかえり今日の美術教室 ふりかえり今日は美術教室の初日ということもあり、いきなり画用紙に向かうのではなく、まずは「楽しさ」と「想像の扉」を開く活動として、ネコのお面づくりに取り組みました。はじめての環境では緊張しやすい子どももいますが、お面という立体的で親しみやすい題材は、自然と手を動かしやすく、想像を引き出すきっかけになります。作業が始まると、子どもたちはそれぞれの“お気に入りのネコ”を思い浮かべながら、色を選び、模様を考え、ひげや耳の形にも工夫を凝らしていました。仕上がったお面はどれも個性が光り、可愛らしさの中に、その子らしい発想がはっきりと表れていました。僕自身も、子どもたちが楽しそうに手を動かし、思いついたことを口にしながら形にしていく姿にたくさんの刺...
2025.12.06 06:55OECD教育からみた、創造性に対する美術教育。OECD教育からみた、創造性に対する美術教育。―Art Education and Creativity in the OECD Education 2030 Framework―1.序論:なぜOECDは「創造性」を重視するのか。OECD Education 2030では、子どもが将来の“ 未知の課題へ主体的に対処する能力(transformative competences)”を身につけることが強調される。その中心にあるのが、 • 創造性(Creativity) • 批判的思考(Critical thinking) • 協働性(Collaboration) • メタ認知(Self-regulation)これらは「知識」だけでは身につかず、経験的・探究...
2025.11.30 11:14アートへの関わり方とウェルビーイング・心身健康への効果研究考察― アートへの関わり方とウェルビーイング・心身健康への効果 ―1. はじめに近年、アートは鑑賞・創作・対話・共同制作など多様な形で人々の生活に取り入れられ、ウェルビーイングや心身の健康を高める手段として注目されている。教育心理学、芸術療法、社会心理学、ポジティブ心理学など複数領域の研究が示すように、アートは単なる趣味活動ではなく、人の情緒調整、自己認識、社会関係形成、意味づけの力を強化する心理社会的アプローチとなり得る。2. アートへの関わり方の分類アートの効果は「どのような関わり方をするか」によって異なる。研究文献を整理すると大きく以下に分類できる。関わり方 &...
2025.11.29 05:06アートで発達に課題のある子どもたちにどこまで活路が見出されるのかアートで発達に課題のある子どもたちにどこまで活路が見出されるのか―教育心理学・発達心理学・芸術療法の視点から―1. 序論(研究背景)近年、発達に課題のある子ども(発達障害、知的障害、情緒的課題、社会適応の困難など)に対する支援において、美術活動(以下、アート)が注目されている。アートは言語能力や学力に依存しない表現媒体であり、自己理解・情緒調整・対人交流・自己効力感の向上を促す可能性が指摘されている。特に、「認知的機能の凸凹」や「感覚特性」を抱える子どもにとってアートは有力な表現手段となりうる。しかし、アートによる支援の効果は個々の特性や環境差により大きく異なるため、「どこまで活路が見出されるのか」について実証的議論が求められている。2. 研究目的本レ...
2025.11.16 11:55― 内的・外的・心理学的観点からの学術的考察 ―アート活動において思考と感覚を両立させるための要因― 内的・外的・心理学的観点からの学術的考察 ―1.序論アート活動は、造形表現を通して自己を探究するプロセスであり、知的活動(思考)と身体感覚や情動(感覚)の統合によって成立する複合的な営みである。美術教育や創造的活動の領域では、論理的計画性と直感的感受性のバランスが、作品の完成度や主体的表現の発達に寄与することが指摘されている(Lowenfeld, 1947/Arnheim, 1969)。本稿では、アート活動における思考と感覚の両立を可能にする要因を、内的要因・外的要因・心理学的観点から整理する。2.内的要因(個人内部に作用する認知・情動の要素)2-1.自己調整能力制作途中で「評価」や「迷い」が生じた...
2025.11.15 06:04― 子どもにとって美術活動は必要不可欠なのか ―なぜ、どうして美術活動をするのか?― 子どもにとって美術活動は必要不可欠なのか ―1. はじめに近年の教育現場において、美術教育はコア教科学習に比して周縁化されやすく、技能学習・情操教育の補助と捉えられがちである。しかし、発達心理学・教育心理学・神経科学・社会情動学習(SEL)の研究は、美術活動が子どもの認知・情緒・社会性の発達に複層的に寄与することを示している。本研究の目的は、美術活動がなぜ子どもにとって必要不可欠といえるのかを学術的視点から検討し、その教育的意義を明確にすることである。2. 研究背景子どもの発達プロセスは、単に学力向上のみで説明できるものではなく、認知能力・情緒の安定・社会性・自己形成・自己効力感など多面的な成長が統合されることで成...
2025.11.14 12:00―「創造性の土壌を耕す」から「理解としてのデザイン」へ―デザインの「面白がり方」に関する考え。―「創造性の土壌を耕す」から「理解としてのデザイン」へ―1.はじめに立命館大学にて開催された、来年度開講予定のデザイン・アート学部に向けたセミナーでは、「創造性の土壌を耕す」というテーマのもと、デザインの捉え方や向き合い方について議論が展開された。セミナー内では「デザインの面白がり方」がキーワードとして取り上げられ、デザインが知的好奇心を刺激する対象であることが強調された。しかしながら、本レポートでは「面白がる」ことにのみ焦点を当てるのでは不十分であり、デザインを観察し、思考を働かせることで深い理解を学び取るプロセスこそが本質であるという立場から考察を行う。2.デザインの概念に関する再検討一般的に「デザイン」は視覚...
2025.11.07 14:45子ども(発達に課題のある)たちの美術活動。子ども(発達に課題のある)たちの美術活動。活動内容:粘土による立体表現「カッコいいスーパーを作る。」1.活動の概要子どもは「カッコいいスーパーを作りたい」と自らテーマを決め、粘土を用いて制作に取り組みました。構想段階から主体的に発想し、どのような形や構造にしたいかを考えながら制作を進めました。完成後、本人は「思っていたのと違う」と仕上がりに対して不満を示していましたが、制作の過程では集中して手を動かし、工夫を重ねる姿が観られました。2.観察と評価制作中は、試行錯誤を繰り返しながら制作していました。自分の思い描くイメージと、実際に手で形づくる現実との間に差があることを体験することは、表現活動における重要な学びです。結果に満足できなかったとしても、そこで感...
2025.11.07 10:00創造的表現を通じた心の発達と社会的適応の促進社会情緒的非認知能力を美術教育(活動)で改善する―創造的表現を通じた心の発達と社会的適応の促進―Ⅰ.序論近年、教育において「非認知能力(non-cognitive skills)」の重要性が注目されている。知識や学力といった認知的能力に対し、非認知能力は情動や態度、対人スキル、自己制御力など、人格的な側面を形成する力である(Heckman, 2006)。特に幼児期から児童期にかけては、『社会情緒的非認知能力(social-emotional non-cognitive skills)』の発達が、学習意欲や他者との関係構築、自己理解の基盤となる。この力は、近年の教育現場で注目される「SEL(Social Emotional Learning)」とも深く関...