発達に課題のある子どもが美術活動によって想像を働かせることに関する発達心理学的考察

研究ノート 

テーマ:発達に課題のある子どもが美術活動によって想像を働かせることに関する発達心理学的考察 


ヴィゴツキー理論に基づく視点から
1. ヴィゴツキーの基本的視座
ヴィゴツキー(L.S. Vygotsky, 1896-1934)は、発達を個体内部の成熟過程だけでなく、社会的相互作用を通じた文化的形成過程と捉えた。 
特に彼は、次の二点を重視している。
•発達の最近接領域(ZPD) 子どもが今自力ではできないが、支援を受ければできる範囲。学びと発達はこの領域で促進される。
•文化的道具(signs)と内在化(internalization) 言語、シンボル、イメージなど、文化的な道具を取り込み、自分の内部で操作できるようになることで発達が進む。
この視点から、美術活動は「文化的道具」を使った内在化の過程そのものであり、また想像(imagination)は高次の文化的機能として重要視された。

2. ヴィゴツキーにおける想像の役割
ヴィゴツキーは『想像力と創造性』(Imagination and Creativity in Childhood, 1930)において、 想像とは以下のような営みだと述べている。
•想像は、記憶された素材を再構成することによって生まれる。
•想像は、現実の新たな認識や未来の行動を準備する精神的機能である。
•子どもにとって想像は、遊びや芸術活動を通じて特に豊かに発達する。
ここから、美術活動において発達に課題のある子どもたちが想像を働かせることは、現実世界を精神内に再構成し、新たな意味づけを生み出す行為と捉えられる。

3. 美術活動と発達支援の接続
ヴィゴツキー理論に基づく美術活動の意義をまとめると次のようになる。
•媒介的役割 美術という表現手段(絵の具、紙、粘土など)は、言語以外の文化的道具として、子どもが内的世界を外化(externalization)し、他者とのコミュニケーションを可能にする。
•発達の最近接領域(ZPD)の拡張 大人や他者(教師、支援者)が適切な働きかけ(スキャフォルディング)を行うことで、子どもは本来持っている潜在能力以上の想像的表現を引き出され、発達が促される。
•内在化の促進 具体的な制作活動を通じて、外的な経験が徐々に内面化され、自己調整・自己表現の力が育つ。
•遊びと芸術の連続性 ヴィゴツキーは「遊びは子どもの最重要な発達活動」と位置づけたが、美術活動もまた遊びに似た自由なルール設定の中で行われるため、創造的想像力の発達に直結する。

4. 理念的まとめ
ヴィゴツキー理論から導かれる理念は次のように整理できる。
•発達とは他者との関係の中で文化的道具を媒介にして進む。
•美術活動は、発達の最近接領域を広げるための有効な媒介となる。
•想像力の発達は、現実を生きる力(adaptation)そのものである。
•支援とは、子どもの未完成な可能性を見抜き、それを引き出す協働プロセスである。

ヴィゴツキー
レフ・セミョーノヴィチ・ヴィゴツキーは、ベラルーシ出身のソビエト連邦の心理学者。 唯物弁証法を土台として全く新しい心理学体系を構築し、当時支配的であった既存の心理学を鋭く批判した。(ウキペディアより)

大場六夫's Art Random 僕の美術教育論

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