2025.11.30 11:14アートへの関わり方とウェルビーイング・心身健康への効果研究考察― アートへの関わり方とウェルビーイング・心身健康への効果 ―1. はじめに近年、アートは鑑賞・創作・対話・共同制作など多様な形で人々の生活に取り入れられ、ウェルビーイングや心身の健康を高める手段として注目されている。教育心理学、芸術療法、社会心理学、ポジティブ心理学など複数領域の研究が示すように、アートは単なる趣味活動ではなく、人の情緒調整、自己認識、社会関係形成、意味づけの力を強化する心理社会的アプローチとなり得る。2. アートへの関わり方の分類アートの効果は「どのような関わり方をするか」によって異なる。研究文献を整理すると大きく以下に分類できる。関わり方 &...
2025.11.29 05:06アートで発達に課題のある子どもたちにどこまで活路が見出されるのかアートで発達に課題のある子どもたちにどこまで活路が見出されるのか―教育心理学・発達心理学・芸術療法の視点から―1. 序論(研究背景)近年、発達に課題のある子ども(発達障害、知的障害、情緒的課題、社会適応の困難など)に対する支援において、美術活動(以下、アート)が注目されている。アートは言語能力や学力に依存しない表現媒体であり、自己理解・情緒調整・対人交流・自己効力感の向上を促す可能性が指摘されている。特に、「認知的機能の凸凹」や「感覚特性」を抱える子どもにとってアートは有力な表現手段となりうる。しかし、アートによる支援の効果は個々の特性や環境差により大きく異なるため、「どこまで活路が見出されるのか」について実証的議論が求められている。2. 研究目的本レ...
2025.11.28 14:35美術は単なる芸術表現の枠を超え、社会的課題への応答、心理的ウェルビーイングの向上、教育の新たな価値創造■序論 21世紀の社会は、情報化・AIテクノロジー・グローバル化が急速に進み、人間の感情・創造性・文化的アイデンティティがこれまで以上に問い直されている。こうした状況の中、美術は単なる芸術表現の枠を超え、社会的課題への応答、心理的ウェルビーイングの向上、教育の新たな価値創造という観点から再評価されている。本論では、美術が現代社会において果たしうる役割を社会・心理学・教育の3領域から学術的に論じ、美術が「人間理解」と「未来社会の形成」に寄与できる可能性を検討する。 第1章 社会における美術 多様性・文化・共創の視点から 現代社会が抱える分断・孤立・価値観の衝突といった問題に対して、美術は以下の点から有効なアプローチとなる。...
2025.11.28 13:35令和7年度 京都市ひきこもり支援事業補助金支援事業 『アート・キャンプ』令和7年度 京都市ひきこもり支援事業補助金支援事業『アート・キャンプ』において、ひきこもり状態にある若者を対象としたアート活動を実施しました。当日は、全長約3メートルのタペストリーを4枚制作し、「京都」「顔」「彼岸花」などのテーマのもと、若者一人ひとりが感じたことや思いを、自由な発想で表現しました。決められた正解のない創作の時間は、自身の内面と向き合い、他者と空間を共有しながら表現する貴重な体験となりました。このアート活動が、若者たちにとって自分自身を肯定し、社会との新たなつながりを感じるきっかけとなり、前向きな生活への第一歩となることを願っています。完成したタペストリーは、後日、紅葉が美しい京都・法然院にて展示していただき、多くの方にご覧いただく機会...
2025.11.16 11:55― 内的・外的・心理学的観点からの学術的考察 ―アート活動において思考と感覚を両立させるための要因― 内的・外的・心理学的観点からの学術的考察 ―1.序論アート活動は、造形表現を通して自己を探究するプロセスであり、知的活動(思考)と身体感覚や情動(感覚)の統合によって成立する複合的な営みである。美術教育や創造的活動の領域では、論理的計画性と直感的感受性のバランスが、作品の完成度や主体的表現の発達に寄与することが指摘されている(Lowenfeld, 1947/Arnheim, 1969)。本稿では、アート活動における思考と感覚の両立を可能にする要因を、内的要因・外的要因・心理学的観点から整理する。2.内的要因(個人内部に作用する認知・情動の要素)2-1.自己調整能力制作途中で「評価」や「迷い」が生じた...
2025.11.15 06:04― 子どもにとって美術活動は必要不可欠なのか ―なぜ、どうして美術活動をするのか?― 子どもにとって美術活動は必要不可欠なのか ―1. はじめに近年の教育現場において、美術教育はコア教科学習に比して周縁化されやすく、技能学習・情操教育の補助と捉えられがちである。しかし、発達心理学・教育心理学・神経科学・社会情動学習(SEL)の研究は、美術活動が子どもの認知・情緒・社会性の発達に複層的に寄与することを示している。本研究の目的は、美術活動がなぜ子どもにとって必要不可欠といえるのかを学術的視点から検討し、その教育的意義を明確にすることである。2. 研究背景子どもの発達プロセスは、単に学力向上のみで説明できるものではなく、認知能力・情緒の安定・社会性・自己形成・自己効力感など多面的な成長が統合されることで成...
2025.11.14 12:00―「創造性の土壌を耕す」から「理解としてのデザイン」へ―デザインの「面白がり方」に関する考え。―「創造性の土壌を耕す」から「理解としてのデザイン」へ―1.はじめに立命館大学にて開催された、来年度開講予定のデザイン・アート学部に向けたセミナーでは、「創造性の土壌を耕す」というテーマのもと、デザインの捉え方や向き合い方について議論が展開された。セミナー内では「デザインの面白がり方」がキーワードとして取り上げられ、デザインが知的好奇心を刺激する対象であることが強調された。しかしながら、本レポートでは「面白がる」ことにのみ焦点を当てるのでは不十分であり、デザインを観察し、思考を働かせることで深い理解を学び取るプロセスこそが本質であるという立場から考察を行う。2.デザインの概念に関する再検討一般的に「デザイン」は視覚...
2025.11.08 14:55自閉スペクトラム症の誤信念課題から観る心の理論自閉スペクトラム症の誤信念課題から観る心の理論― 他者の心的状態を理解する力の発達的視点から ―1. はじめに人間の社会的行動を理解するうえで、他者の意図・信念・感情を推測する能力、すなわち「心の理論(Theory of Mind, ToM)」は重要な役割を果たす。この能力は、他者の行動の背後にある心的状態を理解し、適切に対応する社会的スキルの基盤となる。本稿では、心の理論の発達過程を説明する代表的課題である「誤信念課題(False Belief Task)」に着目し、とくに自閉スペクトラム症(以下、ASD)児における遂行特徴から、心の理論の発達的特性とその支援的意義を考察する。2. 心の理論とは心の理論とは、他者が自分とは異なる信念や知識、感情をもつ...
2025.11.07 14:45子ども(発達に課題のある)たちの美術活動。子ども(発達に課題のある)たちの美術活動。活動内容:粘土による立体表現「カッコいいスーパーを作る。」1.活動の概要子どもは「カッコいいスーパーを作りたい」と自らテーマを決め、粘土を用いて制作に取り組みました。構想段階から主体的に発想し、どのような形や構造にしたいかを考えながら制作を進めました。完成後、本人は「思っていたのと違う」と仕上がりに対して不満を示していましたが、制作の過程では集中して手を動かし、工夫を重ねる姿が観られました。2.観察と評価制作中は、試行錯誤を繰り返しながら制作していました。自分の思い描くイメージと、実際に手で形づくる現実との間に差があることを体験することは、表現活動における重要な学びです。結果に満足できなかったとしても、そこで感...
2025.11.07 10:00創造的表現を通じた心の発達と社会的適応の促進社会情緒的非認知能力を美術教育(活動)で改善する―創造的表現を通じた心の発達と社会的適応の促進―Ⅰ.序論近年、教育において「非認知能力(non-cognitive skills)」の重要性が注目されている。知識や学力といった認知的能力に対し、非認知能力は情動や態度、対人スキル、自己制御力など、人格的な側面を形成する力である(Heckman, 2006)。特に幼児期から児童期にかけては、『社会情緒的非認知能力(social-emotional non-cognitive skills)』の発達が、学習意欲や他者との関係構築、自己理解の基盤となる。この力は、近年の教育現場で注目される「SEL(Social Emotional Learning)」とも深く関...
2025.11.06 04:45想像を育む「美術教室」無料体験の報告想像を育む「美術教室」無料体験の報告― 技術よりも、心を動かす「想像的美術教育」 ―◆ 今日の体験会の様子本日2日、今月の開講に向けて「想像」をテーマとした美術教室の無料体験を行いました。初めての環境にもかかわらず、戸惑うことなく、むしろ笑顔で楽しみながら制作に取り組む姿が見られました。素材や色、形を自由に選び、自分の思いをのびのびと表現していく時間は、まさに「想像が生まれる瞬間」そのものでした。◆ 「想像的美術教育」とは本教室が大切にしているのは、絵を上手に描くことや技術を磨くことではありません。それよりも、「こんな世界をつくってみたい」「これを描いたらどうなるだろう」と、子ども自身の心から生まれる「想像」を形にすることを大切にしています。この「想像...
2025.11.05 14:15障害があってもなくても子どもは、想像をいっぱい働かせてアートで楽しく遊ぼう障害があってもなくても子どもは、想像をいっぱい働かせてアートで楽しく遊ぼう― 包摂的美術教育における想像と心的発達の意義 ―キーワード:成長 特別支援教育美術 発達障害美術 発達心理学 美術教育 包括的な教育要旨(Abstract) 本レポートは、障害の有無にかかわらず、すべての子どもが「想像」を働かせながらアートを楽しむことの教育的・心理的意義を論じるものである。アート活動は、単なる造形表現ではなく、個の内的世界を具現化する創造的プロセスである。ヴィゴツキーの発達理論やガードナーの多重知能理論、岡田清らによる美術教育論を踏まえ、想像的活動が子どもの自己表現、情動調整、社会的相互理解にどのように寄与するかを検討する。また、障害のある子どもにおいても、ア...