幼児のアート活動における色選択と認知の変容。

幼児のアート活動における色選択と認知の変容。

〜同一素材の再提示が生む新たな創造性〜

1. はじめに。

本研究は、2025年6月2日に実施された年長組のアート活動において観察された、同一の画材(クレヨン)を再提示することで幼児の色彩選択に変化が見られた事例に着目し、そこに働いた心理的要因および認知的な変容について考察するものである。

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2. 活動の概要。

当日のアート活動では、「下書きをしない」「消しゴムを使わない」という方針のもと、幼児は自由に想像を膨らませ、その勢いでクレヨンで描き始めた。

初めに用意されたクレヨンセットは、後に提供されたものと全く同一の種類である。しかし、後から提示されたクレヨンを手に取った際、幼児はこれまで使用しなかった新たな色を選択し始めた。結果として、作品はより色彩豊かで多様性のあるものへと進化した。

3. 観察された現象と仮説。

3.1 同一物の再提示による認知の「リセット」

後から出されたクレヨンが「新しいもの」として認知された可能性がある。これは、同一の道具であっても提示の仕方やタイミングによって認知が変化することを示している。当初使っていたクレヨンでは選ばなかった色を、同じクレヨンの別セットから選ぶという行動は、いわば「視点の再構築(reframing)」によってもたらされたと考えられる。

3.2 「選択の枠」の拡張

初期に提示されたクレヨンは、活動の開始とともに「使いやすい色」や「見慣れた色」に集中しがちだったと考えられる。しかし、クレヨンを「新たに渡された」ことで、幼児の中で無意識に「これは違うもの」「新しい選択肢」という認識が生まれ、既存の枠組みから解放されたと考えられる。

3.3 創造性と心理的安全性

同じ素材でも、「改めて選ぶ」ことでの自由さが創造的な表現を促した。選択の幅が広がることで、幼児はこれまで使ったことのない色に挑戦する心理的余裕を得た。これは、創造性を育むうえで重要な「心理的安全性」とも深く関連する。

4. 考察。

この事例は、幼児が環境や提示の方法に非常に敏感であることを示している。また、「物」そのものの特性以上に、「どのように・いつ・どの文脈で提示されるか」が、幼児の選択や表現に大きな影響を与えることがわかる。

特に、同じクレヨンであっても時間差や文脈によって新たな意味づけが行われるという点は、非認知能力の発達における「認知の柔軟性」や「状況理解力(コンテクスト・アウェアネス)」に関する重要な示唆を含んでいる。

5. 結論と今後の展望。

本活動から得られた発見は、環境設定と提示方法が幼児の創造的認知に与える影響の可能性を示唆する貴重なものであった。今後、教材や画材を再提示する際には、「あえて新たな文脈で提示する」ことで創造的刺激を引き出す手法として活用できる可能性がある。

また、同様の方法が他の領域(例えば言葉・構造遊び・音楽)においても有効かどうか、継続的な観察と検証が期待される。

参考概念

•認知の柔軟性(Cognitive Flexibility)goリフレーミング(Reframing)

•「bc bc if g us if」環境による認知的プ•ライミング(Environmental Priming)心理的安全性(Psychological Safety)


大場六夫's Art Random 僕の美術教育論

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