年長組幼児の創造的表現を広げるアート活動の実践報告
〜クレヨンからちぎり絵・絵の具へ〜
1.はじめに
子どもは、手のひらで素材に触れ、心の中の世界を形にしながら、自分を知り、世界と出会っていきます。
今回の実践では、年長組幼児を対象に、クレヨンだけでなく、ちぎり絵や絵の具を取り入れたアート活動を行いました。表現の素材を広げることで、子どもがどのように想像を膨らませ、自分らしい表現に向かっていくのか。その過程と変化に焦点をあてながら、アートにおける「主体性」の芽生えを探ることを目的としました。
2.活動のねらい
•限られた表現手段から一歩進み、異なる素材に触れることで、想像的思考を刺激する。
•素材の持つ多様な感触や表現の可能性に気づき、表現の幅を広げる。
•自分で画材を選び、試し、工夫する体験を通じて、達成感や自信、そして自己肯定感を育む。
3.実践内容
これまでの活動ではクレヨンを主な道具としてきましたが、今回はそこに「ちぎり絵」と「絵の具」という新たな素材を加え、いわば“表現の地図”を広げる取り組みとしました。
活動のコンセプトは 「アートの領域を広げる」。
素材の選択や構成の自由度を意識的に高め、「どう使うか」「何を描くか」を子ども自身が考え、選び取っていくプロセスを大切にしました。活動のなかでは、クレヨンでの輪郭描き、ちぎった紙の貼り付け、絵の具による彩色など、複数の素材が交差する自由な表現の場が生まれました。
4.子どもの反応と変化
はじめての素材に触れた子どもたちは、これまでにないそれぞれの特性を発見していきました。
素材の感触や効果の違いに気づき、それを言葉にして共有する姿が多く見られました。最初は戸惑っていましたが、制作を重ねるなかで「これもやってみたい」と試す気持ちが生まれ、作品へのこだわりと自信を育んでいきました。
制作後には、「またやりたい」「今度はもっと大きな紙に描きたい」といった声が聞かれ、アートへの意欲や興味が内側から湧き上がっていることが感じられました。
5.考察
素材の広がりは、単なる技法の追加にとどまらず、子どもの思考や感性の扉を開くきっかけとなりました。特に異なる素材を組み合わせるという行為は、「こうしたらどうなる?」という試行錯誤を自然に促し、子ども自身が創造のプロセスに主体的に関わる姿勢を育てました。
また、自己決定の場面が増えることで、「自分で考える」「やってみる」という意識が強まり、自己効力感の向上にもつながったと考えられます。これは、非認知能力、例えば好奇心、集中力、粘り強さといった、学びの根っこにある力の育成にも深く関わるものだと考えられます。
6.まとめ
今回の実践を通して、アート活動に多様な素材や技法を取り入れることで、子どもの想像的表現が豊かに広がることが確認できました。そして、それは単に「上手に描く」といった技術面にとどまらず、「自分で考えて表現する楽しさ」への気づきにつながっていたように感じます。
今後も、子どもの内にある「やってみたい」「表現したい」という気持ちを大切にしながら、素材や手法の幅をさらに広げ、一人ひとりの創造の芽を伸ばすアート活動を継続的に展開していきたいと考えています。
*この作品は、八つ切りサイズでおおよそ90分で仕上げています。
年長組幼児の創造的表現を広げるアート活動の実践報告
大場六夫's Art Random 僕の美術教育論
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