工作キットを通じた想像と創作の学術的考察

工作キットを通じた想像と創作の学術的考察

1. はじめに

本報告は、子どもがペーパークラフトによる旅客機の制作を行う過程において示した発言や想像の広がりを観察し、その教育的意義を発達心理学・教育心理学の観点から考察するものである。特に、知識の再生にとどまらず、想像力や思考の柔軟性が発揮される点に注目する。

2. 活動の概要

対象児はペーパークラフトで旅客機を制作した。その際、一つひとつの部品を組み立てるごとに「これは飛行に役立つ部位である」と説明を加え、まるでパイロットのように飛行原理を語った。また、知識として得ている情報に自身の想像を加え、飛行の仕組みを物語的に語る姿が観察された。

3. 発達心理学的考察

ピアジェの認知発達段階論によれば、幼児期から児童期にかけては「具体的操作期」へと移行する段階であり、物の構造や機能を理解し始める(Piaget, 1952)。この活動において、対象児は「翼は揚力を生み出す」「車輪は着陸のために必要」といった具体的な機能的理解を言葉にし、さらに自身の想像を重ね合わせて説明した。このことは、知識を単に模倣するのではなく、内在化した理解を自己の言葉で表現していることを示す。

また、ヴィゴツキー(1978)の「最近接発達領域(ZPD)」の観点から見ると、この活動は大人や既有知識から得た情報を基盤としつつ、それを超えて新しい想像的発言を生み出している点で「支えられた創造(scaffolded creativity)」といえる。

4. 教育心理学的考察

教育心理学的には、制作活動が「知識の再構築」と「創造的表現」の両立を促した点が重要である。旅客機の完成度そのものよりも、その過程での発言力や想像力の発露こそが学習の核となる。これはブルーナー(1960)の提唱する「発見学習」にも合致しており、知識が単なる受動的理解から能動的表現へと転化する瞬間が観察できたといえる。

さらに、子どものコメントには「子どもらしさ」が滲み出ており、これは教育心理学でいう「自己表現的言語活動」の一形態と考えられる。制作過程で言語による説明を伴ったことは、思考と言語の統合を促し、メタ認知的な学びへとつながっている。

5. 結論

本活動を通して、子どもはペーパークラフトの制作を「模倣的作業」にとどめず、「知識と想像を結合させた創造的活動」として展開した。これは、発達心理学的にみれば具体的操作期における思考の深化であり、教育心理学的にみれば自己表現と発見的学習の促進である。したがって、工作キットは単なる教材にとどまらず、子どもの認知発達・想像力・表現力を有機的に育む教育的資源となりうると結論づけられる。

参考文献

•Piaget, J. (1952). The Origins of Intelligence in Children. New York: International Universities Press.

•Vygotsky, L. S. (1978). Mind in Society: The Development of Higher Psychological Processes. Harvard University Press.

•Bruner, J. S. (1960). The Process of Education. Harvard University Press.



大場六夫's Art Random 僕の美術教育論

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